「よろしくね、フィオナ。それにしても――見れば見るほど可愛らしい、品のある顔立ちだこと…♡ どんなふうに調教したら、あなたの清楚な魅力をもっともっと引き立たせることができるかしら。悩ましいところね」
「調教…って、ひとを犬や馬のように言わないでください、失礼な!」
 絶望の淵にあってもなお、フィオナ姫の声は凛とした響きを失っていない。王妃の最期の言葉が、泣き崩れそうな胸をどうにか奮い立たせていた。
「い、いったい…、私たちに、何を…するつもりなのですか」
「あぁ…その澄みきった、穢れを知らないウブな瞳。たまらないわ…♡」
 ジュジュの無邪気な微笑みは、文字どおり小悪魔のそれだった。形よいフィオナ姫の顎に手を添え、顔を覗きこむ。
「私たちエリニュスの魔女はね、年頃になったら必ず、自分専用の肉便器を持つのが、慣わしなの♪」
「に、にく…べ、便…器――
 直接的で卑賤なその名称を口にするのさえ、姫にとっては生まれてはじめての経験だった。
「そう、肉便器。分からないかしら? つまり生きた人間、その口や身体中の穴を、便器として使うのよ。いくらなんでも、便器の使い方は知ってるでしょう?」
「……………う、うそ…、嘘です、何を…言って――
 ジュジュの説明が進むに連れ、フィオナ姫の瞳がこぼれ落ちんばかりに見開かれてゆく。言葉ひとつひとつの意味は易しくとも、その繋がりが表す文脈のあまりのおぞましさは、とうてい受け入れられるものではない。
「そして、肉便器がより愛らしく、美しく、賢く、凛々しく清楚で、由緒ある高貴な血統であればあるほど、所有する魔女にとってのステータスとなるの。私のママも女王にふさわしく、もと王族の婦人や令嬢だった肉便器を、いくつも所有しているわ。もちろんどれも完璧に調教済み。肉便器としての心構え、内面的な仕上がりも、持ち主の腕の見せ所なのよ」
 信じがたい解説をどこまで理解しているのか、フィオナ姫は小刻みに肩を震わせ、茫然とへたりこんでいる。
「そして今日、あなたの母親が、そのコレクションに加えられたというわけ。安心なさい、私のママの手にかかれば、肉便器に生まれ変わらなければ決して味わえない、夢のような快楽の天国に連れて行ってもらえるから♡」
「ひ…ひどい、お母さまにまで、そんな――
「女王の娘である私も、当然それに見合った肉便器を持つべきじゃない? そこで白羽の矢が立ったのがフィオナ、あなたというわけよ。アルマデルの月光宮に咲く黄金の花、誰からも愛され慕われる、光輝の姫君。あなたをおいて他に、私の初めての肉便器にふさわしい乙女などいないわ」
 ようやく手に入れた可憐な宝石を、魔女の指がゆるゆると撫でさする。ジュジュは初恋のように胸をときめかせていた。
「さぁ――もう待ちきれないわ。さっそくはじめましょう、フィオナ。ぐずぐずしてたら、ママにどんどん先を越されちゃうわ♪」
 無防備にも、フィオナ姫の手枷足枷を次々に外してゆくジュジュ。もはや抵抗や逃亡の心配は無いと踏んだのだろう。
「おとなしくしててね。ドレスを破いてもいいのだけど、どうせ鎖だってもう必要ないものだから」
 ジュジュに促され、ふらふらと視線をさまよわせながら、茫然と立ち上がるフィオナ姫。魔女の指がせわしなく布を解き、たちまち一糸まとわぬ薄桃色の柔肌が、余すところ無く外気に晒された。
「あぁ…素敵よ、フィオナ…。思ってたとおり――ううん、それ以上に綺麗な、まるで、肌の内側から輝いているみたい…♡」
 完璧なまでに均整のとれた、しなやかでたおやかな少女の裸身に、感嘆の吐息を洩らして魅入ってしまうジュジュ。
 そこに一瞬の油断が生じたのであろうか。突如、フィオナ姫の肢体が小鹿のごとく跳躍した。跳んだ先には雑多な器具を載せたサイドテーブル。その中から少女の手が迷い無く掴んだのは、ひとふりの短剣。フィオナ姫は先刻からこれに目をつけ、ずっと狙っていたのだ。
「はぁ、はぁっ、はぁ…っ」
――ふぅん。おしとやかだけが取り得の箱入り娘とは、ひと味違うってことか。で、どうする気? そんなもので、魔女の力に太刀打ちできるとでも――
 別段あわてる素振りも見せず、余裕たっぷりに構えていたジュジュも次の瞬間、さすがに息を呑んだ。